「 日経ものづくり雑誌ブログ 」で紹介

カテゴリ:

2月28日に開催される日経ものづくり、日経デジタルヘルス共催のセミナーについて、開催に至った経緯が述べられています。( 以下ウェブからの抜粋 )
 

Niike Blog.gif

 

 新たな事業分野として医療機器への参入を検討している企業が増えている。医療機器の市場は今後拡大すると見られており、景気の影響も受けにくい。もちろん市場として有望だが、筆者は別の“期待”も抱いている。医療機器に挑戦することで、日本のメーカーが抱える問題点が浮き彫りになるのではないか。

 高度化・複雑化する医療機器に対して、日本のメーカーが貢献できる余地は大きい。しかし一方で、人の生命に直結する医療機器ではけた違いの安全性や信頼性が求められる。それに応えられるかという点で一抹の不安がある。技術力がないと言っているのではない。安全性や信頼性をいかに客観的に立証するかという問題だ。

 医療機器の特徴として、行政機関による監査が挙げられる。国民(または地方自治体の住民)を守るという観点から、行政機関が品質を検証するのだ。中でも、世界で最も厳しいといわれているのが、米食品医薬品局(FDA)の監査だ。米国で販売する医療機器は、FDAが指定している法律や国際規格を満たしていなければならない。

 ただし、単に仕様が基準を満たしていればよいのではない。FDAの監査に詳しいクオリス・イノーバ代表の木村浩実氏によれば、FDAは設計・製造のプロセスが安全性や信頼性を確保する上で合理的かどうかを厳しく追及してくるという。FDAという第三者に対して、設計・製造プロセスが理に適っていることを客観的に説明できなければならないのだ。

口頭での説明は「証拠」にならない

 こうした監査の場面において、日本の企業にありがちなのが、実務を把握している設計者が口頭で監査官に説明するという対応だ。しかし、口頭での説明はほとんど意味がなく、むしろ逆効果ですらあると木村氏は指摘する。口頭での説明は、その場でどうとでも繕えてしまうので、監査官は参考程度にしか聞かない。監査官が「証拠」として重視するのは、文書の記録である。すなわち、FDAに対して客観的に説明するには、全てのプロセスを文書化した上で、各文書の関連部分が追跡可能(トレーサブル)でなければならない。プロセスの文書化については日本では懐疑的な声が多いが、客観的な説明のための「証拠」と考えれば、必要性が理解できるはずだ。逆に、FDAのような第三者の目を気にしなくていい業界では、文書化の必要性はなかなか理解しにくいだろう。

 日本のメーカーは優れた製品や技術を持っているにもかかわらず、それらがなぜ優れているのかを客観的に説明できないことが多い。ほとんどの業界では、そうする必要がなかったからだ。ところが、そのツケが今になって現れてきている。例えば、鉄道やプラントといった産業インフラを海外に輸出しようという動きが活発になっているが、やはりこうした理由で苦戦している。日本は鉄道やプラントを使う事業者の知識が豊富なので、メーカーは事業者の指定通りに造っていればよかったが、海外(特に新興国)の事業者は必ずしもそうではないので、単に優れている点を訴求するのではなく、なぜ優れているのかも含めて説明する必要があるのだ。医療機器は、そうした説明責任が最も厳しく求められる産業の1つだ。そこに参入して得られた経験は、必ず他分野(特に海外での事業)に役立つだろう。

 そこで日経ものづくりでは、医療機器市場に挑戦する企業に向けて、前出の木村氏によるセミナーを企画した。筆者は同氏のセミナーを2回聴講し、それらは主に医療機器メーカーを対象にした内容だったが、話を聞けば聞くほど、これは医療機器をまだ手掛けていないメーカーにこそ必要な内容だと感じた。説明責任の話は、その一例である。「証拠」として成立する文書を残すにはここまで徹底しなければならないのかと気が遠くなったが、それを乗り越えなければ成長市場という果実にはありつけない。医療機器への参入を検討している企業もそうでない企業も、自社の設計・製造の在り方を検証するという意味で、是非聞いてほしい内容だ。